〜開設祝いにいただきました〜

      つ、ついにオレとあいつは恋人同士になってしまった。
      しかも、不覚にもキスをされ、泣いてしまったのだ。
      ため息をつきつつ、朝練が始まる30分以上前に部室の前にやってきた。
      当然部室は開いているわけもなく、グランドにも誰もいないはずだった。
      しかし、いたのだ。
      オレの恋人こと、犬飼 冥が。
      「猿」
      ぎくッと肩をすくませると、振りむく。
      「朝、弱いんじゃ・・・」
      「ちょっと用事があって」
      オレはいつもヒゲオヤジの座っているベンチに腰を下ろす。
      すると、奴まで座ってきたのだ。
      「あのさ・・・犬飼」
      犬飼を見上げると、照れくさそうに赤くなった。
      「なんだ?」
      「どうしてオレと付き合おうと思ったわけ?」
      奴は口ごもりながら、
      「理由が必要なの?」
      オレは首を横に振り、
      「聞きたいじゃん」
      と、笑った。
      「・・・好きだから」
      とシンプルに答えた。
      「だって、オレのこと眼中にないって感じだったじゃん」
      奴は照れくさそうに俯くと、
      「見てた・・・ずっと」
      オレは呆然と奴を見つめた。
      「あの、伝説をぶっ壊したときから」
      奴はオレの耳に小声で、
      (オレの時も動かせてくれた)

      無言。

      目線。

      呼吸。

      どうして恥かしげもなくそういう台詞吐けるんだよ、こいつは。
      今ならグランド30周はできる!
      「・・・」
      そのまま時は過ぎていった。
      オレは奴に言い返せないまま。



      ため息。
      ため息。
      ため息。
      ボールを拭きながら漏れるため息を押さえられずにいる自分がいた。
      「猿のお兄ちゃんどうしたの?」
      目の前にドアップの童顔が現れる
      「スバガキ!いきなり現れるなっ!」
      「さっきからいたよぉ」
      部屋を見回すと司馬までいたのだ。
      「どうしたのさっきからため息ついて」
      「ついてねーよ」
      「ついてるよ、もしかして恋?!」
      オレは天井を見上げ、
      「恋かぁ・・・そんなもんかな」
      たぶん恋。
      おそらく恋。
      でもアレくらいで堕ちるなんて、単純だな、オレも・・・。
      (オレの時も動かしてくれた)
      思い出すだけで顔が火を噴きそうだ。
      「駄目だよっ!お兄ちゃんは僕のお兄ちゃんなんだからね!」
      「はあ?」
      兎丸はふくれ面をしながら。
      「だってお兄ちゃんは僕のだもん」
      こいつは・・・。
      オレは助けを求めるように司馬を見た。
      しかし、司馬は微笑み、
      オレの首に巻きついてきた。
      「おい・・・司馬・・・」
      何か言いたそうに振り向く。
      「ちょっと司馬くん、僕のお兄ちゃん取らないでよね!」
      「・・・」
      無言の訴え。
      「どーでもいいから離れろッ!」
      しぶしぶ離れさせると、部室の扉が開いた。
      「い、犬飼!」
      コピー書類を机の上に置くとオレを見た。
      「猿、主将が呼んでた」
      呆然。
      「あ、そうか・・・」
      オレは待たせちゃ悪いと思い、慌てて部室をでた。
      「ねえ、犬飼君」
      兎丸の呼びかけに目線だけを向ける。
      「お兄ちゃん変じゃない?何か・・・恋してるみたい」
      犬飼はふーんとさして興味なさそうに答えた。
      しかし、兎丸は突っ込んできた。
      「まさか、犬飼くんじゃないよねぇ、お兄ちゃんの恋の相手って・・・」
      真っ黒モードの兎丸(+司馬)に犬飼は恐怖を感じ真実を言えないでいた。

      「え・・・?」
      オレは牛尾キャプの言葉に驚きを隠せないでいた。
      「好きなんだよね、付き合ってほしい」
      だって、あの牛尾キャプがオレに・・・。
      「あの、そんな急に・・・」
      だって一応先約(?)がいるし、でも、強引なところがあるんだよなこの人。
      「今、好きな人でもいるの?」
      「いや、あの、つーか、付き合ってる人が・・・」
      うんうん。
      まあ、微妙なんだけどね。
      「じゃあ、お試し期間ってことで、僕と付き合ってみてその人と比べるって言うのは?」
      いや、比べるんでしたら牛尾キャプの方が勝ってますよ。
      でも。オレは・・・。
      「駄目かい?」
      「いや、牛尾キャプテンはすごくかっこよくてオレの彼氏なんか足元にも及ばないかもしれません」
      「うん?」
      うわぁ、視線が痛い・・・。
      「でも、オレなんかに牛尾キャプテンはもったいないって言うか、オレがもし付き合ったら劣等感とか感じちゃうから・・・」
      今でも十分に感じてますけど。
      「そうか・・・」
      「はい」
      「でも、君を好きでいていいかな」
      えぇ?!
      さっさと他を当たったほうがいいですよ。
      「え?オレなんかよりもっといい人いるかもしれないじゃないですか」
      「いないよ」
      どうして断言できるんですか、この人は。
      「そんなこと・・・」
      「あるよ、だってこんなかわいい人、他探したっていないもん」
      いるって!
      つーか、可愛いっていわれて喜ぶ男もいないけどさぁ。
      「でも・・・牛尾キャプなら・・・」
      と言いかけたとたん、いきなり抱きしめられた。
      ぐいっと強い力で引き寄せられ、
      オレは牛尾キャプの胸に飛び込むかたちになってしまった。
      「猿・・・」
      そこには犬飼が隠れることもせず、つっ立っていた。
      「犬・・・飼?!」
      こ、これはもしかして・・・・、
      宣戦布告ってやつ?!
      「何・・・やってるんですか?」
      まずい・・・。
      これは、俗に言う修羅場って奴では?
      「恋人の語らいかな」
      違うッ!
      それ絶対違う。
      「それって、オレに対する挑戦状ですか?」
      「そう、受け取ってもらえれば」
      火花が飛び散ってます。
      「つーか、放してもらえます?オレのですから、それ」
      「そうなの?猿野くん」
      って何でオレに振るかなぁ。
      「一応・・・付き合ってるって言うか・・・」
      オレが気まずそうに言うと、
      「僕は、ほしいものは人のものでも奪いたくなるんだよねぇ、犬飼くん」
      牛尾キャプの手に力がこもる。
      「奪えるものなら奪ってもいいですよ全力で相手しますから」
      犬飼はオレの手首をつかむと引き寄せた。
      「行くぞ」
      ふっと牛尾キャプテンの力が緩み、オレは犬飼に連れて行かれた。
      「あ・・・」
      牛尾キャプテンはオレと犬飼の姿をじっと見つめていた。
      笑いもせずに・・・。

      「ねぇ!沢松くん」
      その頃沢松は兎丸と司馬に呼び止められていた。
      「えーと、確か・・・天国と一緒の部活の・・・」
      「兎丸と司馬です!」
      沢松は頭を掻き、めんどくさそうに、
      「何?」
      と聞いた。
      「沢松君ってお兄ちゃんの親友だよね?」
      「うーん、まあ、一応」
      すると、兎丸の目が光った。
      「聞きたいことがあるんだけど」
      沢松は一抹の不安を抱えながら、
      「いいけど」
      と答えた。
      「お兄ちゃんって今現在誰かと付き合ってるの?」
      「誰かって・・・?」
      「それを聞きたいの!」
      沢松は少し考え、
      「そう言えば、2、3日前に犬飼っていう奴にキスされたとか言ってたっけ?」
      「へぇ・・・」
      空気が変わる。
      沢松は寒気を感じ、身を震わせた。
      「お兄ちゃんは喜んでた?」
      「いや・・・喜ぶも悲しむも、かなり驚いていたみたいだぜ?」
      ブリザードの風が吹き荒れる。
      「でもよー、あの犬飼もついに我慢の限界かって感じだよなぁ・・・はたから見りゃ付き合ってるって言われても・・・」
      しかしそこに兎丸の姿はなかった。
      「あれ?兎丸くん?」
      司馬一人があせあせと戸惑っていた。
      沢松はぽりぽりと頭を掻きつつ、
      「面白いから、梅星さん呼んでこよっと」
      といって走っていってしまった。

      「犬飼君」
      ため息をつきつつ歩く犬飼を兎丸が呼び止めた。
      「兎丸?」
      不思議そうな顔をし、歩を止める。
      「ねぇ、お兄ちゃんと付き合ってるって本当?」
      犬飼はうーんと唸り、
      「とりあえず、そういうつもりだけど?」
      兎丸はにやりと笑うと、
      「僕はおにいちゃんが好きだ!」
      新たなるライバルの出現に犬飼は心の中で舌打ちした。
      (あいつって案外モテるんだ)
      とのんきに思っていた。
      「だから、僕は犬飼君に決闘を申し込むよ!」
      げっとあとずさる。
      「わかったよ、オレがあいつから手を引けばいいんだろ?」
      「え・・・?」
      「引いてやるよ」
      と言い、にやりと笑った。

      「お兄ちゃん!」
      犬飼と同じように板ばさみで疲れきっているオレは兎丸に呼び止められた。
      「スバガキ?どうしたんだよ」
      「犬飼君がお兄ちゃんと別れるってこれでお兄ちゃんは僕のものだねっ!」
      「はぁ?!」
      オレはあまりのことに大声で問い詰めた。
      「そう言ったのか?あいつが」
      「うん」
      オレはいても立ってもいられず、走った。
      すると、あいつがボールかごを持って歩いていた。
      「犬!」
      「うん?」
      あいつは振り向くとあまりの形相に少し引いたみたいだった。
      「なんだよ?!」
      「はあ・・・はあ・・お前、オレと別れるって本当か?!」
      オレは呼吸を整えながら問い詰めた。
      「そのつもりだけど?」
      オレは怒りを覚え、まくし立てた。
      「そんな、簡単にオレと付き合って・・・キス、したのかよ!」
      すると、あいつは、
      「女じゃあるまいし、捨てられたぐらいでぎゃあぎゃあ言うなよ!」
      こいつ・・・。
      オレは何故か悔し涙が出てきた。
      「あ・・・おいっ!」
      犬飼は慌てた。
      「お前はどうして、そう・・・泣いてばっか・・・」
      オレは涙を拭くと、
      「オレにだって解かんねーよっ」
      ただ、こんな奴に捨てられるのが悔しいだけのはず・・。
      でも、何故か苦しくて切なくなる。
      「お前は、ノリで付き合ったかも知れねーけど、オレは違うんだからなっ!」
      犬飼は呆然とし、
      「それって・・・」
      「好きで好きで・・・どうしようもないんだよッ!」
      言ってしまった・・・。
      しかもグランド中に響くような大声で・・・。
      犬飼はふっと笑うと、
      「悪かった・・・つらい思いさせて」
      ぎゅっと力強く抱きしめられる。
      「あーっ!」
      兎丸のかわいい声が響く。
      「犬飼君っ!お兄ちゃんから離れてよっ!」
      オレは兎丸の方を見て、
      「兎丸・・・」
      オレは真面目に話そうと名前で呼んだ。
      「オレはこいつが好きなんだ・・・」
      「おにいちゃん・・・」
      「邪魔しても諦められない、だから・・・」
      兎丸はにこっと微笑んだ。
      そして、校舎の裏に走っていった。


      「はあ・・・」
      兎丸はため息をついていた。
      (振られ・・・ちゃった)
      地面にぐちゃぐちゃとわけのわからない図形を描いては消して消しては描いていた。
      すると、彼の前に一人の人物が現れた。
      「司馬くん」
      彼は顔を上げた。
      司馬は兎丸の肩をやさしく叩いた。
      「大丈夫、僕、諦めないよっ!」
      いつか振り向かせてやる、という決意だった。
      夕焼け空があたりをオレンジ色に染めかけていた。


      ーおまけー
      「猿野くん、僕だって諦めないからね!」
      と夕日に誓う男が一人。
      その大声に驚き、誰もが引いていたのはあえて言わないでおこう。



      わ〜い!もらっちゃった♪もらっちゃった♪
      美月野 紫良 様、ありがとうです〜
      開設祝いとしてしかと頂戴いたしました!
      素晴らしいです。兎丸君、こわ可愛いです(どんなだよ…)
      司馬君おいしいところを!
      パソコンの前で踊っている姿(?)を見せられないことを残念に思います。
      (別に見たくないですよね…)
      本当にありがとうございました、大切に飾らせていただきます。