今日も平和



軍医務室前に2人の少尉がいた。

「おい、西園寺どうする?」
「どうするって、中に入れる雰囲気じゃないし。大隈ちょっとのぞいてみてよ」
「馬鹿言え!見つかったらどうするんだよ!!!」

2人が小声で言い争っていると声を掛けてくる人達がいた。

「おい、てめぇらどうしたんだ!」

上官である三條は、ドアの前にいる2人を邪魔そうに見ながら言った。
声を掛けられた2人は突然の上官の登場に驚き、固まってしまった。
そんな2人の姿を気の毒に思った山縣は、三條を軽くたしなめた。

「三條中佐。言葉遣いはもう少し丁寧になされた方が良いと思いますよ。」
「山縣…。てめぇは言葉遣いは丁寧でも言ってることが腹立つんだよ。
俺のこと上官だと思ってねぇだろ。」

三條の言葉を軽く無視して山縣は続けた。

「大隈少尉、西園寺少尉、どうして入らないのですか?
医務室に用があるのでしょう?」

大隈と西園寺が先ほど無視されて、機嫌を損ねている三條の顔を伺うと
三條は顎をしゃくって2人に話すよう促した。

「それが、使用中でして…」
「使用中だぁ?んなの気にしねぇで入っちまえばいいだろうが。」

大隈の説明が、皆まで言い終わる前に三條は引き戸に手を掛け医務室に入ろうとした。

「三條中佐。他人の話は最後まできちんと聞かれた方が良いですよ。
多分、このまま入室して後悔するのは中佐です。」

山縣は、引き戸にかかった三條の腕を掴みそう言った。
三條の突然の行動に、肝を冷やした大隈と西園寺だったが、山縣が止めてくれたことに
安堵した。

「実は、使用されている方が黒田司令官と松方大尉なんです。」
「自分たちは松方大尉を呼びに来たのですが…。どうも中に入りづらくて。」

大隈と西園寺は交互に説明した。

「やはり、中にいらしたのは黒田司令官でしたか。
あの方は気むずかしい方ですから。」

山縣は表情の変化に乏しく、思いも寄らないところで機嫌を損ねる司令官を思った。

「危ねぇ!黒田司令官の話の邪魔をするな。は軍の鉄則だもんな…。」

三條は、以前黒田の話を悪気無く邪魔してしまい酷い目にあったことを思い出していた。

「いかが致します?三條中佐。」
「そうだな、まずは中の様子を探るか。山縣少佐準備しろ。」
「了解致しました。」

急にまじめな顔をして盗聴の準備をし始めた2人の上官だが、大隈と西園寺には
楽しんでいるようにしか見えなかった。

「三條中佐。準備終了いたしました。」
「よし、開始しろ。」




〜盗聴開始〜


「黒田司令官。本当に入れるんですか?」

「なんだ、たたき上げの割に怖がりなんだな。」

「すみません、でも痛そうで…。」

「安心しろ。まぁ入れたときは痛むかもし知れんがすぐに気持ちよくなるさ。」


〜盗聴電波悪化により一時中断〜




4人の間に気まずい空気が流れた。




〜盗聴再開〜


「覚悟は出来ました…。やってください!」

「よし、だが閉じていては入れられないんだが。きちんと開け!」

「すみません!」

「入れるぞ…。」


「やっぱり駄目です!自分には出来ません…。」

「無理矢理入れるのは好まないが…仕方ないな。」


〜盗聴強制終了〜




「黒田司令官!失礼いたします!!」
「松方大尉を呼びに参りました!」

松方の危機を救おうと大隈と西園寺は医務室に飛び込んだ。
しかし、そこで2人が目にしたのは目薬を手にした黒田と目をつぶった松方の姿だった。

「大隈少尉、西園寺少尉。忘年会が楽しみだな…。」

表情をまったく変えずにつぶやかれた黒田の一言で大隈と西園寺は真っ青になった。


その頃すでに、三條と山縣は機材を片づけ医務室から離れていた。


山国絵巻、第一作目です。プレゼント用に書いた短編です。(2005.12.24)

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