呼ばれ方


テニス部の今日一日の練習メニューを終え部室に戻り、部室内に自分と赤澤しかいないことを確認して、金田は最近新しくこの聖ルドルフテニス部に補強組とて加わった不二裕太について感じていたことを相談した。

「赤澤部長、ちょっと相談したいことがあるんですけど・・・いいですか?」
「ああ?かまわないが。なんだ?」
「あの今度また新しく補強組で入ってきた不二について何ですけど」
「ああ、裕太か。で裕太と何かあったのか?」
「いや、特になにがあったって訳じゃないんですけど。俺嫌われてるかも知れないんです。」
「裕太にか?」

赤澤は少し考えて

「お前何かしたのか?例えば夕食のカレーを少ない方を渡したとか?」
「そんなことしませんよ!むしろ他の木更津先輩や柳沢先輩、観月先輩とか赤澤部長と話しているのを見るとそんなことで怒るような奴に見えませんよ。
(というかそんなの気にする人のが少ないと思います。)」
「そんなことで片づけられる問題じゃない。が、まあ確かに優しい奴だしな。ところで、どうして嫌われてると思ったんだ?」
「その、読んでも無視されることが多いんです。あと、呼んで振り返ったときも顔が下向いてたり。」
「なるほど、それはおかしいな。呼べばすぐ反応するもんな、裕太は。特に観月に呼ばれたときなんかは凄いよな。」
「はい。それで・・・ちょっと不安になって。」

しばらく二人とも考え込んでいると、赤澤が急に

「ぬああーーーーーっ!」

と叫び声をあげた。

「うわぁっ!いきなりどうしたんですか?」
「いや、考えてたら熱気がたまったから放出したんだ。」
「だからって、部室内でいきなりやらないでくださいよ。」
「次は気を付けよう、憶えていたらな。ところでさっき思いついたんだが、本人に直接聞いてみるのが一番なんじゃないか?」
「そうですね。・・・でもどう聞けばいいのか、分からないんですよ。」
「心配するな。俺に任せろ、明日さりげなく聞いてやるよ。」
「あの、じゃあ・・・お願いします。」
「おう、任せておけ。」

次の日

練習中、裕太が一人になったとき赤澤は裕太に近づいた。金田は少し離れたところで様子をうかがうことにした。

「おい、裕太。ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいか?」
「はい、赤澤部長何ですか?」

赤澤はさりげなく、昨日相談されたことを聞こうとした。が、

「裕太、お前金田のこと嫌ってるのか?」

めちゃくちゃ直球だった。

「えっ?」

突然の質問に頭が着いていかない裕太。様子をうかがっていた金田も驚いてしまっていた。

「金田のこと嫌いならしかない、個人の感情だからな。だが、せめて理由ぐらい教えてやれ。あいつ気にしてたぞ。」
「ちょっと待ってください!誰が誰を嫌ってるんですか?」
「お前が金田をだよ。まあ理由、本人に言いにくかったら俺に言ってくれ。俺から金田に伝えとく。」
「だから、何で俺が金田を嫌うんですか?」
「いや、だからその理由を話して欲しいんだ。」

会話がずれていることに気づいていない赤澤を見て金田は自分で話をすることにした。

「赤澤部長、ありがとうございました。不二いきなりゴメン、驚いたよな、いきなりあんな質問されて。」
「そりゃ驚いたよ。なんか意味も良くわかんないし、話が見えねぇ。」

顔を伏せて視線を金田からはずして話す裕太。その様子を残念そうに金田は見て

「あのな、俺が昨日、赤澤部長に相談したんだ。不二に嫌われてるかも知れないって。」
「なんで、俺が嫌ってるなんて思ったんだ?」

ようやく金田の方を向いた裕太の顔は、驚きと疑問に満ちていた。

「だって、不二俺が呼んでも無視することがあるじゃないか。それに話してる時も顔を合わせようとしないし、さっき俺が謝ったときだって」

「金田、もう充分お前の言いたいことは裕太に伝わったみたいだぞ。裕太、金田が思っていることが誤解なのかどうなのか、しっかり説明してやれ。顔を見てだ。」

「はい。・・・金田、ごめん。誤解させちゃったみたいでちゃんと説明するから聞いてくれないか?」

「・・・・分かった。」
「あのな・・・。俺・・・名字で呼ばれ馴れてないんだ。」
「それって?」

裕太の言ったことの意味をはかりきれず金田は思わず聞き返してしまった。

「その・・・前いた中学では兄貴がいたから。俺はずっと名前で呼ばれてたんだ。だからルドルフに来て不二って呼ばれても、自分が呼ばれてることに気づかないことがあるんだ。」
「・・・名前呼んでも気づかなかったっていう理由は分かったけど、なんで顔を背けたりしてたんだ?」
「それは・・・・・恥ずかしかったんだ。今まで、不二は兄貴のことだったから。兄貴と同じ呼ばれ方されんのが恥ずかしかったんだよ。」

そう言った裕太の顔は真っ赤になっていて、その顔を可愛いと金田は思った。

「なんだ、そんな理由だったんだ。」
「誤解させたみたいで悪かったな。」

金田は嫌われてなどいなかったことが分かり安心し、裕太もまた誤解が解けたので安心した。

「話がうまくまとまったみたいで良かったな。」
「赤澤部長、ありがとうございました。でも不二にもうちょっと分かりやすく聞いてくれれば良かったんですよ。」
「バーカ、最初に裕太に質問したときに金田の誤解だって事が分かったからだ。本人同士で話し合った方がすっきりするだろ。」
「「赤澤部長。」」
「まぁ、同じ学年なんだし。二人とも、これからも仲良くやれよ。」
「はい、これからもよろしく不二。」
「よろしくな、金田。」
「よし、練習再開だ!あんま話てっと観月に怒られるしな。」

そういって赤澤は後輩二人の頭を押した。

その後、裕太は金田に不二と呼ばれたときはすぐに反応できるようになっていた。
その理由、裕太曰く「金田の声を憶えたから」らしい。それを聞いた金田の方が赤くなっていた。



きっとルドルフに編入したての頃ってこんな事があっただろうなぁと妄想して書いてみました。そして頼れる先輩、赤澤さんを書いてみました。成功してるかどうかは皆様の心の中でご判断いただけると嬉しいです。金田君も良い子なのでもっと書きたいです。うまく書けないけど・・・。愛は注いでます。


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